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大阪高等裁判所 昭和36年(く)61号 決定

少年 H(昭二一・一一・七生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件申立の理由の要旨は、右少年は心身共未成熟な少年であり、本件はいずれも悪友に煽動されてしたことである、現在深く反省悔吾しているから今一度家庭に引取り温情ある肉親の監督と学校長以下担任教員の援助を得て指導することによつて矯正が可能であると確信する、それが不可能と思われる程に少年は悪質な性格者ではない。そうであるのに少年を初等少年院に送致することとした原決定は、著るしく不当であるからその取消を求めるというのである。

よつて本件記録(少年に対する調査記録、原審昭和三六年少第一四三号少年保護事件記録を含む)を調査するに、少年の家庭は、父、母、兄、姉、弟、妹及び少年共一家七人が肩書住居地中○政○方で間借居住し、父は会社の守衛、母と兄とは工員姉は店員としていずれも終日外勤し、弟妹は中小学校在学中という生活状況であること、次に原決定各事実につき少年が加工した態様をみるのに、少年は第一の強盗傷人の所為について○○ことBに誘われ犯行に加担し現場において共犯者等に協力し、第二の(一)、(三)の窃盗の手口はいずれも空巣盗で××ことMらが侵入窃取する間現場で見張りを為し、その臓物の一部を入質し、第二の(二)の強盗傷人の所為は、共犯者らと一緒に営業所内に押し入り他の者が被害者○川○親を脅したりロープでその手足を縛つたりしているとき少年が丸椅子を振り上げ同人の頭部を殴打し或は布切で猿ぐつわをし皆と手分けして室内を物色して現金等を強取し、逃走後売春婦と遊んだりした後、官憲の目を逃れるため共犯者らと共に少年の本籍地○○市に逃走していたことがいずれも認められる。少年が右窃盗のみならず強盗傷人というような強悪犯行を敢行するようになつたのは偶然悪友に誘われて犯したという単統なものではなく、その根源は深いものがあると思われる。即ち少年は昭和三十四年四月中学校入学のときから学習意欲を欠き授業中気ままに飛出したり学友に暴力を振い或は生徒を脅して金を捲きあげたり、それが段々昂じて愚連隊の連中がするような異様な服装をして登校し女生徒に見せびらかして得意になり追々学校を遠ざかり屡々校内又は校外路上で悪友と一緒になつて学生らから金品を脅し奪うというようなことが続き又通行中の若い女性に抱きつくというわいせつな行動をしたことがあり、三十六年一月頃に家出して独り暮しの工員○川一○(当十六年)の居室で多数の男女中学生と一緒に寝泊りし、母親が迎えに行つても帰宅を肯んぜず、その後も概ね安宿に泊り遊興に耽り少年の自供によると不良と共謀して通行人から金品を恐喝してその間の生活の凌ぎとし、その挙句前示のような非行に及んだことが窺われ、今や学校当局においてもこれまで種々方法を尽したが少年に対する指導教化につきこれ以上手の施す術もないし、学校教育全体の保持上少年を隔離して補導教育することを望んでいることをも知ることができる。前示のとおり少年の非行癖は、長期に亘り熟成せられて高度に達し保護者においてその家庭環境上又従来の経緯に鑑みると少年に対する指導力、その熱意も十分でないことがいずれも認められる。

よつて少年を初等少年院に送致したのは相当であると認められ本件抗告はその理由がないから少年法第三三条第一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松村寿伝夫 裁判官 小川武夫 裁判官 若木忠義)

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